矯正歯科治療の永久歯抜歯について@(小臼歯の抜歯について)
矯正歯科治療を開始するうえで、時々大きな問題になるのは永久歯の抜歯です。どうして矯正歯科治療で永久歯の抜歯が必要となる場合 があるかと言うと、図のように凸凹の程度が大きいと顎の大きさと歯の大きさにアンバランス(顎の大きさに対して歯の大きさが大きすぎる) が生じているためで、そのアンバランスを解消するために永久歯の抜歯が必要になると考えられています。また、凸凹が小さくても前歯が 前へ出ている場合も前歯を下げるために、永久歯の抜歯が必要になります。主に抜歯される永久歯は、前から数えて4番目の第 1 小臼歯 と呼ばれる歯です(図)、5番目の第2小臼歯を抜歯することも多く、小臼歯抜歯ともいわれることもあります)。いざ抜歯となると、上下左右 対称に4本抜歯する場合が多いと思われます。
小臼歯を抜歯する理由はいくつかありますが、歯列の中央にあるため治療がしやすいこと と他の歯に比べてその価値が比較的小さい ( 少し説明が不適切かもしれませんが)ことが主な理由であると考えられます。

それでは、小臼 歯を抜歯しない場合はどうするのでしょうか。
多くは1.奥歯を後ろに下げる(図)、2.歯列の横の幅を広げる(図)、3.前歯を前へ出す (図)、4.歯の大きさを小さくする(図)、などの方法で小臼歯を抜歯しないで治療を行っていきます。 矯正歯科治療の小臼歯抜歯について は、1900年代前半のアメリカの矯正歯科医の中でおきた抜歯論争(小臼歯を抜かない派と抜く派との論争)から現代まで未だに決着がつ いていないというか、決着がつくような問題ではないかもしれません。
なぜかというと、まず、患者さんの歯並びの状態が千差万別であるた め、明らかに小臼歯抜歯が必要な患者さん(図)と明らかに抜歯が必要ない患者さん ( 図)以外に、抜歯しても抜歯しないでも矯正治療が可 能な患者さん(図)が多数いるからだと思われます。そのような患者さんは抜歯しないで治療をしたほうがいいに決まっているとだれもが考 えると思います。ただここでひとつ問題になるのが口元です。口元は前歯の位置にある程度左右されるため、小臼歯抜歯をした方が前歯 は後方へ移動しやすく口元は下がりやすいのです。
抜歯をしないと前歯の位置はあまり変わらない場合が多く口元はあまり変わらないか 場合によっては前歯が前方に移動し口元が出てしまうこともあります(もちろんそうならないように治療計画を立てるのですが)。ここで、美 しい口元の基準として E sthetic-line ( E-line )というものがありますが(図)、患者さんのお顔の形も様々で、患者さんの口元に対する希望も 様々なため、一概に E-line を基準にして口元の状態を評価する(患者さんの希望を無視して)のは危険な場合もあるのです。患者さんに とって口元というのは大変大きなことなので(特に女性にとって)、治療後に口元をどうするか、つまり前歯の位置をどうするかが、顎と歯の 大きさのアンバランスと同様、小臼歯抜歯を行うかどうかを決める際の大きな判断基準になるのです。だれでも永久歯を抜歯したくありま せんし、健康な永久歯の抜歯自体が矯正治療のデメリットだと思います。ただ重要なことは永久歯の抜歯のデメリットに勝る治療結果が得 られる場合に抜歯が選択されることが多いのです。この矯正治療の方針を決めていく過程は大変重要になります。また、患者さんの希望も かなり重要な判断基準になるので、ご自分のお口の中の状態をよくご理解いただいて治療方針を検討してくことが、満足のいく治療結果に つながるものと思われます。

永久歯の抜歯を行わない時に用いられる具体的な方法
1.奥歯の後方移動装置
2.歯列の拡大装置
3.ストリッピング(歯の大きさを小さくする)
4.インプラント矯正

矯正歯科治療の永久歯抜歯についてA(親知らずの抜歯について)
親知らずは永久歯の中で8番目に生えてくる歯で第3大臼歯と呼ばれています(図)。通常18〜20歳で生えてくるのですが、現代人の場 合、親知らずが生えてくるスペースがないことが多いため、曲がって生えてきたり、場合によっては骨の中に横になって生えてこなかった り、 . 中途半端に生えたりします(図)。親知らずが曲がって生えたり、中途半端に生えたりしていると、その周りに汚れがたまって虫歯になっ たり、炎症がおきて腫れてしまったりして、痛い思いをして抜歯された方も多いのではないかと思います。

矯正歯科治療で親知らずを抜歯する場合は、大きく分けて次のように2通りあるように思われます。
1. 矯正治療を行う上で親知らずの抜歯が必要な場合 小臼歯の抜歯を行わない場合、奥歯を後ろに移動させることが多くなりますが、その場合親知らずがあると奥歯の後ろへの移動が 困難になるため、親知らずの抜歯が必要になります。また、小臼歯を抜歯したとしても、明らかに親知らずが入るスペースがない場 合も親知らずが抜歯となることがあります。
2. 矯正治療後の後戻りを防ぐために親知らずを抜歯する場合 親知らずは大体18〜20歳で生えてくると言われています。ただ、親知らずが生えるときには後方から歯列を押すため、後戻りの原因 となる場合があります。そのような場合には親知らずを抜歯することもあります。

矯正歯科治療の永久歯抜歯についてB(第2大臼歯の抜歯について)
第2大臼歯とは、前から7番目の歯で親知らずの1本手前の歯で(図)、この歯を矯正治療で抜歯する場合があります。この歯を抜歯する 前提として、親知らずが存在していることが条件になります。 ・小臼歯を抜歯するにはスペースが余りすぎてしまうため、前歯が後方に下がりすぎてしまう可能性が大きくなる。 ・抜歯をしないで矯正治療を行うと、前歯が前に出てしまう可能性がある。 ・親知らずを抜歯しようにもまだ生えていない。 以上のような場合に、第2大臼歯を抜歯して矯正治療を行うことがあります。この方法は、第2大臼歯の代わりに親知らずを使うので、比較 的矯正治療で必要なスペースが小さい時に有効な方法であると考えられます。ただ、親知らずがあまりも小さかったりすると、第2大臼歯 は抜歯できないので、比較的条件がそろった時に選択される方法であると考えられます。


矯正歯科治療の永久歯抜歯についてC(状態の悪い永久歯の抜歯)
これまでの@〜Bでは健全な永久歯の抜歯についてご説明しましたが、Cでは状態の悪い永久歯についての抜歯について説明したいと 思います。状態の悪い永久歯とは主に ・歯や歯根の形態異常 ・虫歯の歯 になります。永久歯の抜歯が必要な場合に、状態の悪い歯がある場合は可能な限りその歯を抜歯して治療する方が望ましいと思われます。 かなりケースバイケースになるため、その患者さんに合わせて治療方針を立てていくことになります。虫歯の場合、状態の悪い歯を抜歯し てその隙間を矯正治療で閉じてしまうため、メリットが大きくなる場合が多いと思われます。